組織行動のメカニズム解明:制度だけでは人は動かない、感情と関係性が鍵
企業が新たな制度を導入しても従業員の行動変容が進まないのは、制度だけでは人が動かないため。社会心理学の観点から、人は「自分で決めた」と感じられると主体的に動き、「自分にもできる(Can do)」「やる理由がわかる(Reason to)」「前向きな感情(Energized to)」の3つの条件が揃うと主体的な行動が生まれる。特に、感謝や称賛といったポジティブな感情や関係性が、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、組織の一体感を醸成する重要な要素となる。インターナルコミュニケーション(IC)では、人事との連携や参加型施策、効果検証を通じて、従業員が自発的に行動したくなるような条件を設計することが求められる。
この記事のポイント
- Can do(自分にもできる): 実現可能な目標設定と、小さな達成を積み重ねる「足場かけ」が重要です。
- Reason to(なぜそれをやるのか): 行動が必要な理由を明確に伝え、従業員の納得感を醸成します。
- Energized to(情熱や喜びなどのポジティブな感情): 楽しい、役に立っていると感じる経験や、承認し合える人間関係が行動を促します。

組織行動のカギは感情と関係性
企業が新しい制度や方針を導入しても、従業員が思うように動かないという課題は多くの企業が直面しています。これは、人は制度や仕組みといった表面的なものだけでは動かず、より深い感情や人間関係が行動の原動力となるためです。2026年6月23日の「インターナルコミュニケーション・デイ 2026 Summer」では、東京女子大学の正木郁太郎准教授が社会心理学の視点から、このメカニズムを解説しました。
人は「言われた通り」には動かない
正木准教授は、「人は制度や仕組み、外的強制力だけでは動かない」と指摘します。無理やり動かされると、かえってモチベーションが下がる「心理的リアクタンス」という現象が起こります。一方で、「自分で決めた」と感じられると、主体的に動きやすくなります。企業は、従業員が自ら考え、行動を選択できる余地をどう作り出すかが重要です。
制度は「会社の意図」として受け取られる
人は「言われた通り」には動かない一方で、「言われた以上のこと」を察して動く存在でもあります。例えば、テレワーク制度の導入は、制度そのものの機能だけでなく、「この会社は柔軟に変われる」という会社のメッセージとして従業員に受け取られ、主体的な提案を促す効果がありました。インターナルコミュニケーション(IC)では、制度や施策が従業員にどう解釈されるかまで考慮する必要があります。
主体的な行動を生む3つの条件
人が主体的に動くためには、「プロアクティブ・モチベーション」(受動的ではなく自ら行動を起こすモチベーション)を高める以下の3つの条件が必要です。
- Can do(自分にもできる): 実現可能な目標設定と、小さな達成を積み重ねる「足場かけ」が重要です。
- Reason to(なぜそれをやるのか): 行動が必要な理由を明確に伝え、従業員の納得感を醸成します。
- Energized to(情熱や喜びなどのポジティブな感情): 楽しい、役に立っていると感じる経験や、承認し合える人間関係が行動を促します。
感謝・称賛が関係性をつくる
組織の一体感は、共通の理念だけでなく、「価値観は違っても一緒に働ける」と感じられる関係性から生まれます。その具体的な手段が「感謝」と「称賛」です。これらは単に職場の雰囲気を良くするだけでなく、精神的健康、モチベーション、エンゲージメントの向上、助け合い行動の促進、そして他者との関係性強化に効果があることが心理学の研究で示されています。
正木准教授と企業との共同研究では、社員同士が感謝や称賛を送り合うアプリを使う組織ほど、エンゲージメントの伸びが良いという結果が出ています。
IC実践に必要な3つのポイント
感情と関係性に働きかけるICの実践には、以下の3点が重要です。
- 人事とICの二人三脚と一貫性: 人事制度とICのメッセージに矛盾がないよう連携し、組織の価値観を一貫して示します。
- 自律性と自発性を発揮できる参加型の仕組みと、創意工夫の余白: 現場が自分で考え、工夫できる余地を残すことで主体性を引き出します。
- 可視化と効果検証の繰り返し: 施策の効果をデータやフィードバックで測定し、改善につなげます。
人は制度だけでは動きませんが、感情が動き、良好な関係性が築かれることで、自発的な行動が生まれ、組織は活性化します。ICの役割は、情報を伝えるだけでなく、人が「動きたい」と感じる条件を設計することにあるのです。
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